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小さい時からたくさんの人が視えていた。
その半分は生きてはいないのだと知った時、俺の世界は少しだけ壊れた。
生きているのか死んでいるのかわからなくかった。
だから、眼を閉じた。
それでも、ざわざわと声にならない響きがいつもうるさかった。
だから、耳を塞いだ。
周りからは視えないモノに怯えて、落ち着きのない気味の悪い子供に映っただろう。
そんな幼少時代だから、本当の両親にも嫌われて、今の養父の元にいる。
養父のおかげで子供時代にくらべれば随分と楽になった。
封じることはできるけれど、それでは身が守れない。
と、他の人には視えない、聴こえない声に惑わされて、階段を踏み外して怪我をした足を見遣った養父がいう。
だから、視える力だけは残してくれた。
視えるだけだったら、眼を反らせばいいだけだから。
だから、俺の視える世界には声が存在しない。
それは、幸福なことなのだと、ずっと思っていた。
「弟って……、もしかして腕に三日月みたいな痣がある……?」
なんで訊いてしまったのだろう。
佐伯は少し驚いた表情をして、小さく頷いた。
「――うん。……あったよ」
あぁ。
佐伯の弟は今も自分が死んだことに気がつかずに、いまも無邪気に遊んでいるのだろうか。
帰りを告げる姉の声を待っているのだろうか。
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