―1―

10/15
前へ
/16ページ
次へ
  「なんでも借金があったみたいで」 「定職にもつかず毎日酒浸りだったみたいよ」 「冬美ちゃんも可哀想に」 「そういえば弟さんも小さい時に亡くなっているんでしょ」 噂好きの近所の住人たちのとめどない会話。 俺は胸クソが悪くなって、焼香も早々にその場を退散した。 式場にはクラス連中のすすり泣く声が聞こえてくる。 それほど親しくもなかった女子が抱き合って泣いていたりと、いまひとつ真実味がなくて俺は顔をしかめた。 俺は誰にも気づかれずに佐伯の姿を探した。 身体があるのならすぐ近くにいると思ったからだ。 佐伯の姿はすぐに見つかった。 川近くの式場のため、枯れかけた草の上、土手に腰を降ろしていた彼女は、昨日会ったままの制服姿だった。    
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

160人が本棚に入れています
本棚に追加