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「椎名くん、……ありがとう」
佐伯は聞き取れないほど小さな声で、今にも泣きだしそうな顔で、俺を見つめていた。
「あたしなんかのために、泣いてくれて」
「バ、っカ……」
鼻をすする音がやけに大きく響いた。
「お経って弟が亡くなった時に聴いたけど、よくわからなかったんだ。でもね、今だったらわかるよ。あれは、あちらの世界に行くための挨拶みたいなもんなんだね」
じゃあね、と立ち上がり、今にもどこかにいってしまいそうな佐伯に、
「なにか、――弟にいいたいことはないか?」
「……やっぱり、椎名くんは視えてたんだね」
佐伯はホッとしたような、すべて解っていたかのような表情で俺を見下ろした。
橋の下で遊ぶ子供を時々眺めていた俺を、佐伯もまた目撃していたのだ。
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