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  佐伯冬美が失踪して一週間がたった。 特別目立つわけでもなければ、素行が悪い生徒でもない。 それ故に彼女の出来事は、日常を持て余していたクラスの連中から、かっこうの話題のタネになっていた。 風評はクラスを飛び越え、学校中に知れ渡った。 もともと山と川に囲まれた小さな村だ。 学年のほとんどは顔見知りの、そんな小さな高等学校なのだから。 良くない風評は広まり、さすがに不謹慎だと教師に注意された。 初めこそは何かの事件に巻き込まれただのと、面白半分に噂する者、心配をしていたクラスメイト達も、休日を挟んで週が明けた頃には彼女の存在はひどく小さくなっていた。 雑踏の中、ポツリと窓際に佇む、主人の居ない机。 誰が掃除するわけでもない彼女の居場所を、時々クラスの女子たちが「どうしたんだろうね」と会話の一節にのるぐらいだった。 クラスの一人が居なくなっても、日常は変わらず機能しているし、学校という世界は、彼女に対してまるで無関心だった。  
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