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凛とした空気に漂う金木犀の匂いが強くなり、秋と冬が入り混じる季節。
山の麓(ふもと)にある学校は、行きと帰りとでは登校時間が倍以上違う。
一時間に数えるほどしかないバスを待つよりは、歩いて帰ってしまったほうが早いと思う生徒が多く、俺もその一人であった。
いつものように、町と山を隔てる川に架かる大橋の真ん中で、俺は足を止める。
その行為は一瞬。
気づかれないように、目を合わせないように。
しばらく雨も降らず、水深の低くなった川を覗き込めば、五、六歳ぐらいの子供が水際で一人、遊んでいる。
タンクトップに短パン。
冬も間近なのに、夏の装い。
日に焼けた細い二の腕には三日月のような痣が見えた。
遊んでいる。
たった一人で。
水面を足でばしゃばしゃと揺らしている。
はしゃぐ声が聴こえない。
けれど川の流れる音だけが、ざわざわと耳に届くだけだ。
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