160人が本棚に入れています
本棚に追加
ぼんやりと視点の合わない彼女が俺の声に気がつき、焦点があう。
「あれ、椎名くん?」
鈴を転がしたような軽やかで綺麗な声を。
「おまえ、どうしたんだよ。一週間も学校来なくて。みんな心配してたんだぞ」
彼女を見る限り、汚れた箇所もなければ怪我をしている風でもなかった。
あまりにも普通であったのだ。
「そうなんだ」
まるで他人事のように、佐伯は首を傾げただけだった。
「――あのね、椎名くん。あたしね、小さい時に弟がいたの」
「なに? いきなり」
基本的に俺は、あまり人に話しかけない。
彼女とは日直で一緒になった時、少し言葉を交わした程度の仲だ。
「昔、夏にこの川で弟と二人で遊んでてね、あたしが目を離した瞬間に弟は川に流されちゃったの」
夏の水難事故。
最初のコメントを投稿しよう!