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  毎年耳にする不幸な出来事。 「そのせいでお父さんとお母さんの仲が悪くなって、お母さんは家を出て行っちゃったの」 あたしのせいで。 あの時、あたしがちゃんとしていればって、今でも後悔しているんだ。 「だからね、弟は今でもあたしのことを恨んでるんじゃないかって、いつも気になっていたの」 「――――」 思わず、橋の下を覗き込んでしまった。 河原に佇む子供の幽霊はふと、俺の視線に気がついたのか、遊ぶ手をやめ、橋の上の俺たちを見ていた。 なにか言いたげな、そんな表情で。 口元が誰かを呼んでいた。 大きく口を開けて、何度も何度も。 あいにく俺には幽霊の声は聴こえない。 それは、幸福なことなのだとずっと思っていた。  
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