お前に言われたくない

2/9
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
悪魔の店は、通学路である大通りから少し外れた路地にある。 その店に入ることは、難しい。 ふるびたビルとビルの寂しい隙間にぽつんと細長いドアがある。 注意して歩いていなければきっと通りすぎてしまうくらいの隙間。 見つけたとしても次にまた見つけられるかはわからない。 その店への道順を完璧に覚えたはずの私でさえも、五回に一回しかたどり着けない。 これは私が方向音痴だとか、物覚えが悪いとかそういうことではないと思う。 必死で探し歩いてるときは見付からず、ぼんやりと家までの道のりをとぼとぼ歩いているとき、ふいに思い付いて何気無くどこかの角を曲がってみると、たどり着いたりする。 あの黒いドアは、きまぐれに現れているような気がしてならない。 たぶん、学校でこの場所を知っているのは私だけなんじゃないだろうか。 誰にも教えるつもりはないけれど。 久しぶりに目の前に現れたドアを見つめながら、私はそう思った。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!