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いつものことなので、私は躊躇いなく席を立って湯を沸かすためにやかんに水を溜め始めたが、
「悪魔は、商売する気ないでしょ。いっそやめちゃえばいいのに」
初めて彼の商売に対する姿勢について意見してみた。
ここが流行っているとは思えないから、彼は店がどうなろうと生活していけるだけの余裕があるんだろうし、決して彼が好きで喫茶店としているとは思えない。
「何かしていないと、ここにいる理由がなくなっちゃうからね」
悪魔が視線を人形から外さずに言う。
黒い髪。薄い唇。細身の体。
黒い角や尻尾が生えているわけでもないのだが。
彼を何故悪魔、と呼ぶようになったのだろう。
彼がそう呼ぶように促したのか、私が勝手に呼んでいるのか。
とにかくここに来るようになって四ヶ月は経つのにいまだこの呼び名以外に私は彼の名前らしい名前を知らない。
他に呼ぶと名前を知っても私は彼を悪魔と呼ぶのではないかと思う。
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