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「理由がいるって、この場所は店しか建てられないとか?」
「あー……うん。そんなとこ」
絶対適当に答えてる。
私も無理矢理聞くような話題ではないと思ったのでそれ以上は何も言わなかった。
今の会話だけじゃなく、悪魔は私に対する全てに適当だ。
しゅんしゅん、とやかんが音を立てはじめた。
一度火からおろしてポットとカップを温めるために少しだけ湯を注ぐ。
いる?と二つめのカップを持ちながら聞くと、濡らしたら嫌だから、と返ってきた。
人形の洋服を濡らしたら嫌だから、だ。
茶葉の入った缶を開けながら、彼が抱いている人形を見る。茶色いセミロングの豪華なドレスを着た少女の人形。
悪魔は、長い指で彼女の緩く巻かれた髪をすいていた。
慈しむようにゆっくり、丁寧に。
彼は僅かに笑んでいる。なんて柔らかい笑みだろう。
やかんがきゅーっと高く鳴き、私は火を止めた。
手入れが一通り終わったらしく、悪魔は側にあった箱に丁寧に人形を納め、蓋をした。
そして、かなり乱暴にその箱を、壁に沿って重ねられた箱の山の、まだ低く積まれているてっぺんに向けて放りなげた。
銀のブリキの箱は他の箱にぶつかって大きな音を立て、その辺りの箱の山は少し崩れ、何箱かは床に落ちた。
「やっぱり頂戴」
いつもこうだ。
私は二つめのカップにも紅茶を注いだ。
決して紅茶が飲みたいから急に手荒く扱ったのではない。
悪魔はこれ以上ないのではというほど愛しげに人形を扱うのに、箱に納めるとああやって憎んでいるのかというほど乱暴に扱うのだ。
憎んでいる、というよりは「どうでもよい」と思っているという方がしっくりくるような気がする。
あの銀色の箱は頑丈で、中は人形がぴったり納まるようになっているらしい。
以前あんな風に強く叩き付けられた人形が、そのあと傷一つなくまた彼の手に抱かれているのを見たことがある。あの箱に入っていれば、人形は壊れないらしい。
壊れないと分かっているからあんなにも乱暴に扱うのだろうか。
それにしたってあんなに慈しんだものを次の瞬間ガラクタの様に扱う彼の行動が、私にはわからない。
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