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悪魔から返事はなかった。
「魔法とか使えるの?……例えば、」
人を人形に変えるとか。
自分でそう言ってから、背中を冷たいものが走った。この人形で埋め尽された部屋で、私はなんてことを口走ってしまったんだろう。
だいぶ慣れてきて、気にならなくなっていた人形たちの視線がまた急に私の全身に注がれているような感覚に陥る。
この人形たちが、生きているとしたら。
悪魔に横抱きされている少女が今にも私の方をぎょろりと向きそうだ。
「やったことないからわからないな」
少し間を置いて、人形の首筋を撫でながら悪魔が呟いた。
「興味ないし」
自分の思い付きを否定されて、私はほっとした。しかし何故だか少しだけ落胆した。
「なんで魂の入っていたものを、わざわざ人形にしなきゃいけない?使用済みの入れ物なんて可愛くも何ともないよ」
いつになく悪魔が饒舌。
「この子たちは、からっぽなのに何も中に入れることを望まない。その気がないのに、形だけはそういうものを受け入れるようにつくられている」
そこが、いい。
悪魔の空虚に見えていた瞳が炎をともしたように見える。
ああ、ほらやっぱり。
人形たちは手入れをされているのではない。
愛撫されている。
彼はこの子たちにしかこんな目をしない。こんな触りかたをしない。
「*******」
不意に名前を呼ばれて彼の指を見つめていた私は顔をあげる。
悪魔が、私を見ていた。
初めて真っ直ぐに彼の視線を受けた。
「魔法をかけて欲しかった、とか?」
笑っている。
「人形になって、この子みたいに、僕に撫でられたかった、とか?」
見すかされている。
気付かれていて当たり前だ。私はここに来るたびに彼の指先を見つめ、彼の瞳を覗きこみ。
彼に慈しまれる彼女たちをどんな羨ましげな、恨ましげな目で見ていただろう。
暴かれて当然の胸のうちだったけど、初めて目を合わされて、初めて名前を呼ばれて私の頭は真っ白になった。
恐らく、これが最初で最後だ。もう二度と彼は私をこんな風に扱ったりしない。
私は何故だかわからないけど、そう確信した。
「人形になりたいだなんて、君は変態じゃないの?」
箱に納められた人形が床に叩き付けられる。
彼女たちにしか、愛情を注げないくせに。
お前に言われたくない。
end.
081026 自サイトより
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