かえろう

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【かえろう】 私が見たのは大量の血。 そして警察の人達。 昨夜、母に刃向かい彼氏の家に泊まりに行った私 おまけにその朝に捨てられて、 朝、母と二人暮らしのアパートに帰ってきた。 きっと「馬鹿」と一時間ぐらい説教されて それで反省したように泣く。彼氏に捨てられたことに泣く。 母は分かってくれて、抱きしめてくれる。 それが私の今日の朝からの予定だった。 予定というか予想。 必ずそうなると思っていた。 マンションの一室。 私を迎えたのは大量の血液と警官。 まるで火曜サスペンス劇場だ。 何か事件があったのだろうか… 私の家で。 不吉なことが頭によぎったが無理矢理払った。 ないない、まさか。 そんなこと…… 警官が一人近づいてきた。 男性で三十代ぐらいか。 如何にも警官という感じだ。 「娘さんですか?」 私に気を使うようにおずおずと言う、警官。 「はぁ…」 血に警官。 そしてここにいるはずの住人、母がいないという事実。 「母は………」 何処にいるんですか? もしかしてしんだんですか なんでですか ころされたんですか そう言おうとしたけれど 言いたくなかった。 聞きたくなかった。 信じたくなかった。 「貴方のお母様はですね…」 言いにくそうに警官が言い始める。 その雰囲気で全てがわかった気がした。 なんていうか勘だ。 試験の山勘などは全く当たらない癖にこんな時に限ってそんな勘が働く。 私は耳を塞いだ。 人の言葉で聞かなくても もう私の五感がそれを感じている そうよ おかあさんはしんだのよ アナタのセイよ… もしもイエにイれば ワタシが……………… 「いやぁ!!!」 認めたく無い。 そんなわけない。 私は喚いた。 でも息が続かなかった。 目の前の警官が言葉を発した。 「貴方の」 私は座り込んだ。いや、倒れ込んだと言っても良い。 警官が屈み込み、私の目線に合わせた。 「お母さんは」 真実を この耳で知るんだ この頭に 理解させるんだ 「今朝方、亡くな」 私の耳にはそれ以上入って来なかった。 拒絶したとでもいうのか。 これが真実。 主観と客観が一致した。 驚きはしなかった。 私は全部初めから理解していたのよ… 涙は無い。 悲しみも、無い。 警官はそっと私の肩に手を置いた。 私はその手を振り払い何処かへ走り出した。     *
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