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ガラスの小さな机を挟みソファに座り向き合う男女。 その机の上に置いてある灯の付いた蝋燭。 それだけが今この部屋にある光。 彼女はほの暗い闇を好む。 明るいのは自分の姿がはっきりするから嫌、暗いと相手の姿が見えないから嫌、そんな理由。 僕にとってもほの暗い闇は心地良い。 それは僕が彼女同様、光の世界から拒まれた者だからだろうか……。 沈黙が続いた。 それは普通の感覚だとほんの一瞬。 しかし、彼女はそれに恐怖を感じる質。 軽く震えだした彼女はそれを隠すかのように静かに立ち上がった。 向かう先は台所、冷蔵庫。 それは足跡も立てず、まるで踊り子のような、美しい動作。 僕はその美しい一連の仕草をじっと目で追う。 まるでそこに線があるかのようにその足は真っ直ぐに進む。 止まった足。 扉を開け何かを取り出す長く細い指。 「飲む?」 彼女はそれを僕の方へ向ける。 暗闇だったが僕は形状からそれが何なのかがすぐに分かった。 「それお酒じゃないですか」 彼女が持つのはその形から推測するに酒と思われる瓶。 僕はまだ未成年で飲む資格は無い。 「平気よ。私が貴方ぐらいの歳にはもう飲んでたわよ」 そう言い、グラス二つと酒瓶を両方の手に持ちこちらへやってくる。 立ったまま、自分と僕の前にグラスを置き、それに液体を注ぎ始める。 色は透明。 炭酸水だろうか、と一瞬だけ思ったが彼女がそれを飲むはずがないと思いその考えは捨てた。 彼女は言うなれば酒豪。 飲む物は酒のみ。 それしか口にしている所を見たことが無い。 冷蔵庫にはペットボトルのお茶やジュースがたまにあったりする。しかしそれは僕が持ってきたもの。 彼女のために持ってきたのだが、殆ど手を付けるのは僕だけ。
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