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店内は閉店時間も迫っていて、客足も少なかった。
わたしと中神さんはいくつもの空いた席の中、二人掛けのテーブルに向かい合って座った。
わたしのご馳走したショートケーキとアメリカンコーヒーを中神さんが遠慮がちにつまんでいる間、わたしは中神さんの背広を預かって、水で濡らしたハンカチで大きく広がった染みを拭っていた。
「ここへはよくいらっしゃるんですか?」
「ええ、家が近所なもので」
「僕もなんです。ここのコーヒーは割といけますね」
などといくつかの社交辞令的な会話を経て、ようやく中神さんは胸ポケットへ手を突っ込んで、「タバコ、いいですか?」と聞いてくれた。
そんなことをご丁寧に聞いてくれるような男性がそれまでわたしのまわりにはいなかったので(わたしも愛煙家なので、それは当然のことかもしれないけど)、わたしは妙に自分の中の“女”を意識させられてしまった。
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