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斉藤希(のぞみ)はその日、塾の帰り道を歩いていた。
(今日もまた、一日が終わる…)
声に出さず、顔に出さず、少女はそう思っていた。
単調過ぎる毎日、同じことの繰り返し。
意味のない人生、もう飽き飽き。
上辺でしか付き合えない友人、感情を押し付けるだけの大人。
意見を聞こうともしない周囲の人間、もうたくさん。
いつしか希は、死への果てしない願望を抱くようになった。
もう死にたい。
未来になんか興味ない。
何もかもがどうでもいい。
少女は死ぬ瞬間を待ちわびながら、生きてきた。
(いつになったら、私は死ねるんだろう)
顔を上げれば、そこには光輝く月がいた。
行き交う人々は忙しそうに歩き、希の側を通り過ぎて行く。
(早く帰らなきゃ…。遅くなったら、何言われるか分からない)
目線を下にして、誰の顔を見ることもなく、足早に帰ろうとする少女。
ー死にたいのに死ねないー
皮肉なことに、死への願望が今の彼女を生かしている原動力だった。
そんな彼女のもとに、
「こんばんは」
不意に前から、若い男の声が聞こえた。
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