デミス

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希は、その声に顔を上げることなく、歩みを進めた。 ふと、目の前に月に照らされた長い影が見えた。 それは他の影と違い、動くことなく佇んでいる。 訝しみつつも、ゆっくりと希は影の先を目で追い、その正体を目にした。 「こんばんは。斉藤希さん」 全身黒づくめの男が、そこにいた。 「誰??」 少し怯えながら、それでもはっきりとした声音で希は言った。 心の中で、私はこの人に殺されるのだろうか?という的外れな考えを持ちながら。 「そんな警戒しないでくれ。別に怪しい者ではないから」 そうは言っても、その出で立ちはどこからどう見ても怪しかった。 「ちょっと良いかな。君に話したいことがある。大事な、だーいじな話をね」 ``大事``という言葉を強調させながら、男は言う。 希は、男に対する不信感を更に募らせた。 しかし、男は目に見えるそれを気にすることなく、 「残念だけど、俺は君を殺しはしないよ。例え、君が死にたがっていてもね。それじゃ、大事な話がダメになっちゃう」 希の思っている事を始めから知っていたかのような口調で言った。
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