裁き

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「失礼します。」 神は丁寧にドアを叩く。 「入れ。」 中から低い音和の声がした。 中に入ると白いデスクの向こうに、黒い椅子に腰掛ける音和が居た。 真っ黒の艶のあるスーツを身に纏い、腕には高そうな銀色の時計が光っていた。 綺麗な金髪の髪は無造作にセットされ、かけている眼鏡は鋭い目付きを余計に引き立てていた。 神は黙ってデスク前まで歩みよった。 「神、昨日も欠勤したそうだな?」 怒りを感じさせる低い声で音和は言った。 「すみません。」 「理由は?」 神はしっかりと音和を見て、はっきりとした口調で告げた。 「音和さん、俺、店を辞めます。」 心なしか音和の表情がいっそう険しくなったように見えた。 「辞める、だと?そんな勝手が許されると思っているのか・・・?」 「思ってません。でも、もうホストは続けられません。」 音和の迫力に負けないよう、神は声を少し大きくして言った。 「無理だ。」 「音和さん」 「辞めたい、理由は?」 「・・・心から・・・愛する人ができました。」 「女・・・か。」 音和は少し笑みを浮かべた。 「やめておけ。たった一人の女の存在で、今までのキャリアを潰すのか?」 「そんなもの、一瞬のまやかしだ。すぐに目が醒める。」 「一瞬なんかじゃありません。その人は、俺のすべてです。一生をかけて守りたい人なんです!!」 「駄目だ。」 「・・・駄目だと言われても、俺は辞めます。」 「覚悟はあるのか?」 「あります・・・。」 音和の言葉を押し切るかのように、神は自分の意見を貫いた。 音和が呟く『覚悟』・・・ 神はその言葉の意味を、 後々痛いほど思い知ることとなる・・・。
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