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左手薬指に足枷を嵌めている彼に気持ちを伝えることがどれほど身の程知らずなことか・・・。
けれど、ずっと大人の彼に、私の気持ちは見透かされていたんだろう。
私の気持ちを十分に知りながら、意地悪にも彼はいつだって優しかった。
彼から高校の卒業証書をもらったその夜、競うように咲く桜の下で私たちは待ち合わせた。
そして・・・彼の吹いた花びらと一緒に、私の恋も闇に散った。
彼に未練がないといえば嘘だ。彼は私の中に住みすぎていた。
主を失くして荒れつつある古い家のように、あちらこちらの柱が不安な音を立てて泣いていた。
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