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時はハジとハヤトが別れた頃に戻る。
ハジは、暗闇に消えていくハヤトの背から目を反らした。
彼は、今目に見ることのない小夜の存在に、背を向けようとしている。
そして、同時に家族にも。
「家族か。」
自分は家族をとうの昔に失っている。そのことを改めてハジは思い立った。
だが自分は家族を失う悲しみよりも、大事な人を得て、その人と共に歩む喜びができた。
だから自分はここに居て、彼らと出会えたのだ。
ハジは手に持った一輪の薔薇を見つめた。
小夜の元へ行こう。
ハジは踵を返すと、夜の中へ飛脚する。
沖縄の海の匂いが、風に紛れて頬に当たる。
ハジは風で薔薇が折れてしまわないように手で覆った。
ふいに、殺気がハジに向けられた。
ハジはすかさず翼手化した右手を振り下ろす。
ハジの右手に弾かれたナイフが、地面に向かって落ちていく。
ハジが屋上に降り立つと、鋭い一閃が目前を霞めた。
再び繰り出された攻撃を、ハジは右手で受ける。
「君がそんな表情を見せるとは思わなかったよ。…ハジ。」
相手はにやりと笑った。
そして右手に力を入れると、弾くように後方へ下がった。
ハジは驚きに言葉が出なかった。
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