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「はい、小柴です…え!?…え~っ…はい…分かりました」
「なにだったんだい?」
小柴が恨めしそうにグラスを置いたのを不思議に思いながら訊いた。
「呼び出しだよ。畜生!」
小柴が悪態を吐きながら出て行くのを見届けて、朝長が電話の内容を推測する。
「犯人が自首したんだろう。だけど、僕の仮説が正しかったら、一人の自首は解決に至らないだろうな」
「だけど、酷い事件もあるもんだなぁ」
「うむ…。小柴には悪いが、飲もう」
「よし、飲もう」
その夜は、二人で適当な話をしながら飲み明かした。
8月29日の朝9時、小柴が目の下に隈をつくり、愛車のRX-8を駆って、朝長の家の玄関を叩いた。
私は椅子に座ったまま寝ていたので、痛む腰を伸ばしてから扉を開けにいった。
「まったく、君は近所の人達にとっては迷惑きわまりない人物だな」
小柴を連れて居間に戻る。
椅子の上で体育座り状態で寝ていた朝長が足を床に下ろして、パイプを吹かし始めた。
古くさいパイプを使う理由は、本人によると、紙を口に咥えてまで煙を吸いたくないのだそうだ。
「こっちは夜通しだ。文句言うな」
「よし、じゃあ君達が得た情報を当ててやろう」
「面白い。やってみろ」
小柴が微笑を浮かべてガッシリと腕を組んだ。
「まず、昨日の電話の内容だが、あれは被疑者が自首してきたというものだ。
で、君達は早速尋問を始めた。それで得た情報は、大きくまとめて6つ。
自首した被疑者は、被害者を刺した。使用したのは君が言ったように、刃渡り20センチの刃物。
毒を注射した覚えはない。刺す前に被害者は死んでいたが、恨みを晴らしたくて、被害者を毒殺した被疑者に感謝しつつ刺した。
心臓を刺して喉を抉る事は、予め決めていた事。
計画を立てた動機は、被疑者がある高名な食品会社の社長か、それくらいの偉いさん。
それで、自分の会社の粗を新聞に掲載される事を知って、殺す事を決意した。
まァ、大体そんなものだろうな」
朝長の推測を聞いていると、本当に取り調べの現場でメモをとっていたような内容ばかりだ。
「なんで分かった?まさか…」
小柴が開いたままになっていた口を閉じて、ハッとしたようにポケットや襟などを探り始めた。
「心配しなくていい。盗聴器なんか仕掛けてない」
「じゃあ、何で分かった?」
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