影の手帳

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「これはあくまでも、僕が立てた仮説が正しかったならばと考えた場合に起こる事柄を推測したまでだ。  シャーロック・ホームズもこう言っている。  When you have eliminated the impossible, whatever remains, however improbable, must be the truth.  (有り得ない事柄を消去してゆけば、残った事柄がいくら信じられないものであっても、真実に違いない)  この事件では、消去するべきでないものもまだ幾らかある。  が、筋が通るものだけにさらにしぼると、一つしかなくなっていくはずだ。  今の推測が合っているなら、僕の立てた仮説は後3つになった」 「完璧だ。相違ない。だけど、今の英語の意味が分からない」 「それは…」  私が、先ほどの英文を訳して説明する。  その間、朝長は掌を合わせて小柴が持っている手帳のあたりをジッと眼を細めて見ていた。 「なるほど。つまり消去法だ」 「そういうこと。…どうした、朝長?」 「書いてある事が気になるか?だけど、全部話してる事だぜ?」  手帳を見る視線に気付いた小柴が言った。 「…持ち物だ」 「え?」  小柴が間の抜けた返事をする。 「被害者の持っていた物を、車の中の物と合わせて全部挙げてくれ」 「ああ?ええと、煙草が数本入った箱とライター、財布と身分証、名刺入りのケース、ボールペン数本。  財布には一万円札が数枚と小銭が幾らか、A山の土産屋のレシートと自動車の免許証。車と家の鍵。  これは前にも言ったよな。  それと、車内にパンとお茶、ケータイ、ティッシュ、雑誌、自分が所属する新聞社のその日の夕刊。  それだけだ。他には何も見つかってない」 「なるほど」  朝長が微笑を浮かべて、席を立った。 「何か分かったか?」  小柴が期待して訊く。 「そうだな。大体一つにしぼれた。今からA山に行こう」 「犯人を捕まえるんじゃないのか?」 「A山に行く前に被害者の家に行ってくれ」  朝長が、小柴の質問を無視して言った。 「…分かった。行こう」  小柴が溜め息をついて、手帳を懐に納めた。
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