影の手帳

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 空は快晴だった。強い陽射しが照り付ける。  一人で考えたいと言う朝長は後部座席に座って、私は助手席に座った。  小柴が運転する車に揺らされながら、最初の目的地である被害者のアパートに1時間ほどで着いた。  被害者の家の鍵を大家に借りてきた小柴が、手袋をして扉を開ける。  一応、まだ警察の調査を受けているようだ。 「うむ…なかなか整っている。独身男性にしては実に清潔だ」  リビングの二面に整然と並んだ本棚のスクラップ記事のファイリングブックを見て朝長が意見を述べる。 「同感だ。で、見たい物は何だったんだ?」 「ここには無いようだ。さぁ、昼食を取ってA山に行こう」  果たして朝長が何を探しているのか、全く分からない。  それだけか?と、げんなりしている小柴を置いて朝長はさっさと家を出た。  その後、被害者宅近くのファミレスで食事を取った。 (男三人がファミレスに入ってきたので、ウェイトレスに怪訝な顔をされたが、朝長は平然としていた)  食後、二時間かけて行楽地として有名なA山に向かった。  朝長は、山頂付近の駐車場に停めた車から降りるとすぐに周りを観察し始めた。  観察は彼の得意分野だ。自然にないものを素早く察知する。  それは大体が事件の解決に寄与するものであった。  暫く眼をきょろきょろとさせていたが、得る物が無かったらしく、眼を動かすのを止めて言った。 「現場に連れていってくれ」 「よし。こっちだ」  小柴が先頭に立って歩く。私も、観察を試みたが、何も見つけられなかった。  展望台は、円筒型の三階建ての建物だ。  三階はパネル展示と、遠望用のデカい、ワンコイン投入式の双眼鏡が置いてある。  二階は食事処。一階にはトイレと小さな休憩場が設けてある。  階段は、建物の円周内をグルリと一周している。  早速、トイレに入っていった。  死体が見つかったトイレの個室は、事件から一週間になるので、さすがに全て片付けられていた。
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