3話 キムチ鍋

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私はあまりのショックに、事件後、数週間記憶を無くしてしまいました。 記憶を取り戻したときには、平穏が戻りつつありました。 事件後、しばらくはえらい騒ぎになっていたらしいです。 我が家は殺人事件のあった現場として一時期心霊スポットになっていたそうです。 まったく、ひどいものです。 私は、血なまぐさい事件が起こった我が家にいる気にはなれず、会社を辞め、家を売り払って親元に帰ることにしました。 あの日、すべてが「最後」の日でした。 20年間連れ添った妻も、結婚を約束した彼女も、そして生まれるはずだった愛しいわが子も、もうどこにもいません。 愛猫のミミも、あの日に出かけたっきり、ついに帰ってきませんでした。もしかしたら妻がすでにミミを殺して、キムチ鍋に入れて食べてしまったのかもしれません・・・。 事件後しばらくして、跡取りの欲しい両親は、積極的に私に再婚の話やお見合いの話を持ってきましたが、私はもう誰とも結婚できないし、子供も持てないような気がするんです。 なぜかというと、付き合っていざ「そのとき」を迎えようとすると・・・・・・あの日の彼女の「子宮の無い」死体、そして妻の最期の「あの顔」がフラッシュバックして全く使い物にならなくなるんです・・・。 私は妻の望みどおり、もう誰のものにもなれなくなってしまいました。 仕方がないんです。 それは、すべて私が悪いんです。 妻の心を何度も殺してしまった私が。 すべて私が・・・。 ちなみにもう一つ。 あの日以来、「キムチ鍋」は食べられなくなってしまいました。            糸冬
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