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母が処置室に入ってから僕はその部屋の前に立っていた。
母の苦しむ声が聞こえてくる・・
こっちも胸の痛くなってくる声だがしかし・・それが母の生きてる証しの声でもあった。
姿見えない今、苦しむ声でもなんでもあの声ある限りは母は生きている。
僕は何度かナースに座って待っててくださいと促されたが、とても座ってなどはいられんかった・・。
ドクターには「あぶない状態です」とハッキリ言われた。
座ってられるはずがない・・。
母63、僕40・・。
僕は縁遠いもので、父親を10年前に亡くしてからはふたり暮らしだった・・。
その父に兄弟はいなかったため、また元々は富山の人間でなく、祖父の代からの富山住まいのために雨本家の親戚は県内にいないし、いたところで、僕がその親戚たちに会ったのは父の葬儀の折しかない。
5つ下の妹はいるが嫁ぎ先がややこしいと言うかとにくいろいろあって・・疎遠になっている・・。
母方の親戚はいるも、なかなか難しい人間関係で、こことも行き来は少ない。
こんな時僕には頼るべきものはなにもないのだ・・。
母の声が聞こえなくなった・・。
助かったのか?それとも・・?
目の前が見えなかった・・。
明日からの事が想像できなくなっていた・・。
処置室のドアが開いた。
「命は取り留めましたが、まだ安心はできません。とにかく集中治療室に入ってもらいます」ドクターはそう言った。「ありがとうございます!」こんなに素直に人に対して深く頭を下げたこともなかっただろう。
「光幸、来とったがか?」
音量調節ができないのかえらくデカイ声で母が笑顔で言った・・。
僕はそこに誰もいなければ大泣きに涙しただろう・・。
助かった・・まだ油断できなとは言え助かった・・。
安堵で僕は床に崩れ落ちる気分だった・・。
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