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その背中を見た私は、胃の奥から込み上げるものを堪えきれず、トイレへと駆け込んだ。
「――――!」
胃液と共に、便器へ吸い込まれる涙。
「……ハァ……ハァ……」
荒い息が狭い空間を余計に息苦しくさせる。
女性の姿が脳裏から離れず、私はまたしても嘔吐する。
「仕事……行かなきゃ……」
混乱した頭に最優先されるべきものが浮かぶが、女性の背中を見たショックが抜けきれず、なかなかトイレから出られない。
前から見れば白っぽかった服。その後ろは赤と紫、所々に見える白。えぐれた背中からは人間の血肉や内臓、骨が、痛々しく顔を覗かせていた――
彼女はRに個人的に怨みがあったとかではない。ただ、彼女が立っていた所に通りかかったから憑いた、それだけのことだった。『この人なら……』と、頼ってついてきたらしい。その後、Rに災いがあったということはなく、彼女も消えていた。
何故彼女の背中が見るも無残なことになっていたのか、私には分からない。
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