332人が本棚に入れています
本棚に追加
「……蔵」
「………。」
何度呼んでも雑誌を読んだまま反応してくれない蔵ノ介。
いつもなら、何してても名前を呼ぶだけで「なんや?」って反応してくれるのに…
「……蔵ノ介…」
クイッと服を引っ張ってみるが、応答はない。
…怒ってるのかな…。
私、知らない間に蔵ノ介を怒らせてしまった?
許してもらえないのかな……
そう考えると、ジワ…と涙が込み上げてくるが、ここで泣いても現状はかわらないのでぐ、と涙をこらえる。
しばらく蔵ノ介の後ろ姿を見つめてから、私は静かに立ち上がった。
そして、鞄を持って玄関に向かい、帰ろうとする。
しかし。
「どこ行くん?」
彼に後ろから抱きしめられてそう聞かれ、私はただただ溢れそうになる涙をこらえた。
そして、震える声で蔵ノ介の質問に答える。
「……帰るの……。」
「……なんでや?」
「…だって、蔵ノ介…怒ってるんでしょ?何回名前呼んでも返事してくれなかったもん……。」
私がそう言うと、蔵ノ介は私を抱きしめる力を強めた。
「すまん…。怒ってへんよ…。ただ、無視したら怜奈がどんな反応するか見たかったんや……。」
「……ほんとに…?」
「ホンマや。せやから、帰るなんて言わんといて。」
私を無視した理由が、なんとなく理不尽だったが、蔵ノ介は怒ってないみたいで安心してつい我慢していた涙を零した。
蔵ノ介は、その涙を優しく拭いてくれた。
(…そないに悲しかったん?)(…うん。だから、もう無視しちゃやだ…)
(…怜奈。)(…な、に…?)(好きや。)(…私も。)
END
最初のコメントを投稿しよう!