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季節は寂しさを覚える紅葉の季節。
夕闇が迫る草原に刀を帯びた幼さを残した少女が立っていた。
その少女と対峙するように身の丈よりも長大な野太刀を構える若い女と、少し後方に控え弓を担ぐ青年が少女を見据えている。
その雰囲気からは獣が獲物を捕らえる時に見せる一瞬の静寂のようだ。
長い間構えの姿勢を取り続けることは武芸の達人であっても心身共に消耗させることになる。
ましてや経験の浅い武芸者であれば無用な力が無意識に働き、その疲労は徐々に体力を奪っていく。
膠着状態がしばらく続き次第に肌に感じる空気が冷たくなるのが分かる。
そして、一陣の風が草原を駆け抜けた。
少女の腰まで伸ばした黒髪が風になびいていた。
「どうじゃ、そろそろ止めにせぬか」
口を開いたのは野太刀を構える若い女だった。
「止めない。情けは掛けないで」
語気を荒げる少女だがその表情は険しく一目で余裕などないことが伺える。
「それでは仕方のないこと。刃を向け続ける限り“獅子”の血は治まらぬ」
「まぁ、そういう事だ」
若い女の後ろに控えていた青年も肩から弓を下ろし、弓に矢を掛けた。
「最後にもう一度聞く。“兵か法か”どちらか答えよ」
「答えなんか決まってる。“兵”ッ」
少女は腹の底から声を出して自らに喝を入れると同時に二人を威嚇した。
「では、覚悟せよ」
野太刀を構えた若い女は身を低くした。
次に瞬間、女の後方より大気を切り裂くように放たれた矢が少女を襲った。
「…ッ」
一瞬の出来事の後、少女の肩口を矢がかすめ鮮血が流れ出ていた。
「それでは満足に刀は振れまい。どうやら終いのようだ」
体勢を戻した女は余裕を持ってそう言い放った。
「ま…まだ終わらない」
「勝ち目などないというのに。“獅子”の血は争えぬな」
女は悲哀に満ちた視線で少女を見た。
そして、女は野太刀を引きずるような低い姿勢で少女に駆け寄り間合い詰めた。
「…早い」
女が放った太刀の一閃は正確に少女の脳天を目掛けて放たれた。
それを少女は辛うじて防いだ。
甲高い金属音と共に刀同士が激しくぶつかり合い、高名な鍛治師によって鍛え抜かれたはずの銘刀はその衝撃で刃こぼれを起こした。
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