開幕‐それは運命のように‐

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  目の前の男子一人に女子一人は、『新婚さんごっこ』をしているようだ。 それはとても微笑ましく、穢れを知らない無垢の子供の良さが存分に出ている。 「可愛らしいな……」 呟くと同時に、隣に座る少女へと語りかけたつもりだった。 しかし少女は見向きもせず、見事に流されたようだ。 カラカラカラ 『新婚さんごっこ』を続ける少女達のシートから、音を立てて茶碗が転がってきた。 茶碗は隣に座る少女の足に当たって静止する。 少女は拾い上げると、それを膝に持ってきてまじまじと眺めた。 ……不思議な子だな。茶碗が珍しいのか? シートにいた男子が気付くと、こちらに走り寄ってきて、少女の膝に置かれる茶碗を見た。 「はい、返し……」 パシッ。 少女が言い終わる前に、男子は茶碗を手に取り走り去っていった。 少しぐらい感謝の言葉を出すべきだろう。 が、どうやら男子にはベンチに座る少女の姿が見えていなかったかのように、まるで反応を示さなかった。
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