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「何でも、です」
目の前の何かが、口元をつり上げた。
数秒。いや、数分。
間を置いて、俺が口を開いた。
「俺の大切な人に、あの暖かい笑顔を戻してください」
決して叶うはずは無いのに、どうして素直に答えてしまったのだろうか。
答えは簡単だ。俺は誰かに頼りたかったんだ。
「わかりました。その願い聞き受けましょう」
即答だった。
快諾だった。
その瞬間、体の力が抜けるような感覚に陥った。
意識が朦朧(もうろう)とする。
――貴方が目覚めた時、彼女はきっと微笑むでしょう。
意識が沈んでいき、視界が遮られる。
そのまま、俺は闇に呑まれた。
――対価と共に。
目覚ましがけたたましく鳴っている。
目覚ましを切って、俺は直ぐに着替えた。
体が自然と動く。
俺は彼女の家へと向かった。
鍵はある。
彼女の両親から譲り受けたためだ。
彼女と交際を始めてから、両親との親睦が深まった頃だった。
何度も断ったが、鍵を渡されたのだ。
結局使用することは無かったが、今は感謝している。
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