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俺は黙っていた。
俺の知っている要は、兄貴のような存在であり頼りになる存在だ。
一年間、たった一年間で要の印象がガラリと変わっていた。
それほどその女性を愛していたのだろう。
「一つ、いいか?」
「なんだ」
「その女性は、今……」
聞かずにはいれなかった。
答えはわかっているはずだ。
「人形は美しいよな」
そう言って要は微笑み、踵を返した。
支えを失った人の道は限られている。
「要は……どう思う」
背を向けた要に言うと、歩いていた足を止めて振り向いた。
「支えてやれ。信じてやれ……それだけだな」
去っていく要の背をじっと見つめていた。
もう会うことは無いのかもしれない。
会ったとしても、その時は助言を交わしてくれるような存在ではないはずだ。
尊敬していた兄を失い、最愛の人を失った。
要にこそ、支えや生きる目標はあるのだろうか、と疑ってしまう。
俺は買い物を済ませて、帰宅した。
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