‐時‐

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  窓から見上げた空に、黄昏の色彩が滲んでいた。 夜の始まりを告げると同時に、一日の終焉を告げる合図だ。 どうやら俺はしばらく眠っていたらしい。 ソファーから身を起こすと、キッチンから良い匂いが漂ってきた。 思わず腹が鳴り、無意識に足を運ばせてしまう。 キッチンには、エプロン姿の優美が料理を作っていた。 「悪い、寝てた。何か手伝おうか?」 「疲れてたんでしょ? 今日は休んでて」 そう言って優美は微笑み、俺の背中を押した。特に疲れてはいない。 しかし、ここは素直に従うことにした。 なぜなら自分が作るより、他人の作った料理の方が美味しいからだ。 これは気持ちの問題だけど。 料理がテーブルに並べられたのを確認し、俺はすぐに手をつけた。 やはり美味しい。 味について訊かれた俺は、言葉の代わりに笑顔を見せて答えた。 「晴彦さんは彼女とかいる?」 脈絡もなく真顔で訊かれた。 もちろん俺は首を横に振る。 「さっき言った通りいない。優美は?」 優美は薄笑いを浮かべ、人差し指を下唇においた。 「いますよ」 「ああ、嘘だな」 「よくわかったね」 あからさま過ぎる。 俺は笑いながら、再び問いかけた。 「だって優美は俺が好きなんだろ?」 すると優美は声を出して笑い、人差し指を下唇に置いて答えた。 「もちろんだよ」 ――予想は的中した。
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