‐春紫苑‐

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  「優美」 名前で呼ぶと、優美がこちらを振り向く。 俺は優美の目をじっと見据えて、少しの間をおいて口を開いた。 「優美は、悩みとかあった?」 「え……、悩み?」 突然の問いに優美は小首を傾げていた。 「そう。あったでしょ」 「えっ……と……」 俺の真剣な眼差しに気圧されているのがわかる。 優美は狼狽えつつも微笑んで、人差し指を下唇に置いて答えた。 「んー、私は無かったな!」 「嘘だよ」 俺は即座に否定した。 一瞬目を見開いていたが、優美はすぐに笑顔を見せた。 今はそれが苦笑いにも見える。 「な……なんで……?」 「優美は嘘をつくとき、下唇に人差し指を置くんだ」 そう、初めて会ったあの日。 透明という不可解な現象についての過去を話した時、冗談の告白をした時、全て人差し指を下唇に置いていた。 「……ぁ……ぁぅ……」 確証をついたのか、優美は目を見開いたまま微かに肩を震わせている。 震える小さな肩に手を置いて、俺は強く言った。 「本当のこと、話してくれる?」
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