4781人が本棚に入れています
本棚に追加
/71ページ
あれから数ヶ月、何の進歩もないままに時間は過ぎていった。
俺たち二人の関係はあまり変わっていない。むしろ変わらなくてもいい。
しかし優美が透明というのは、そろそろ進歩を期待しなければならなかった。
勉強、と言うのもあるが、忘れ去られるのはやはり辛いだろう。
「晴彦さん晴彦さん」
「んん?」
「実は明後日、私の誕生日なの」
「そうなの? よし、それなら祝おうか。何がいい? キ……」
「いらない」
あれ、目からしょっぱい汗が……。
「……じゃあ何がいいの?」
「んーとね、ケーキを作ってみたいの」
「作れるの?」
「もちろん」
確かに器材はあるし、久しぶりにケーキを食べるのも悪くは無い。
「わかった。じゃあ材料は明日買って置くよ」
「うん、ありがとう!」
優美が微笑んだのを見て、俺も笑みが溢れてきた。
後は透明という不可解な事実を、どのようにして治すかだ。
いつから俺の周りはファンタジーになったんだ。
目の前の女の子も困り果てているだろう。
最初のコメントを投稿しよう!