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いつの日か…
記憶にはないけれど、
心のすみに覚えている。
そんな微かな思い出。
――あれは小学校低学年の頃だっただろうか?
笑顔の似合う可愛らしい女の子が砂場で遊んでいた。
「私が大人になったら――くんのお嫁さんにしてくれる?」
そう言って隣で一緒に山を作っていた男の子に声をかける。
男の子は手を止め、女の子をジッと見つめた。
小学校の低学年になってくれば“お嫁さん”がどんな意味なのか、ぐらいは分かってくる。
男の子は考えた。
「僕は…――ちゃんのこと好きだよ、でもプリンやケーキもお母さんや先生も――ちゃんと同じくらい好きなんだ」
男の子はそう言って笑う。
「だから――ちゃんのお嫁さんになるかは今はまだ分かんないや、ごめんね」
小学生ながらにお嫁さんを貰うことの重さを考え、述べる。
現実的だなぁ。
女の子はそれを聞くと少し表情を暗くし俯いた。
「そっかぁ」
でもすぐに顔を上げて、
「それじゃ、私がもし大きくなって綺麗になって、それでまだ―くんが好きだったら、その時は私を――くんの彼女にして」
その問に男の子は驚いていたが、やがてニッコリ笑って、
「うんっ、勿論」
満面の笑みでそう言った。
その数日後、その女の子は転校した。突然の出来事だった。
男の子は悲しくなったが、あの交わされた約束を思い出し、笑って生活しようと決めた。
いつかまた会えるから…
あれから時は過ぎ、
今はあの子のことはほとんど忘れてしまった。
これは遠い日の記憶――、
幼き頃の思ひで――。
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