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『マキってさ、見た目より誠実だよね。』
バイトの給料が出たばかりで、付き合って3ヶ月目のタエとお好み焼き屋に来て、丁度俺がタエのお好み焼きをひっくり返した時だった。
『“恋愛は、遊びじゃない”これ俺が中3の時からの定義。』
鉄板からジュージューと音がする。
隣のテーブルからも後ろのテーブルからも。
タエは、両手で頬杖をついて、焼けるお好み焼きを見ていた。
『重い…』
鉄板の音が邪魔をして、声が届かないが、タエの口が微かに動くのが見えた。
『え?』
『重い!』
今度は、隣のテーブルのおじさんが横目で見る程大きい声で、俺の耳にも確かに届いた。
『お好み焼き嫌だった?』
『違う。マキの気持ちって重いの。もっとさぁ、気軽に?別に結婚する訳じゃないんだから、気軽に楽しみたかったんだよねぇ。』
気軽にとタエはもう1度言った。
そんな事を言われて、何て言えば良いのか、聖徳太子にだって分からないだろう。
焼けたお好み焼きにソースを塗って、マヨネーズをかける。
まぶした鰹節が熱で踊る。
俺の動きを1つも漏らさないようなタエの視線を感じる。
痛いと言うより重い。
圧力が掛かってくる。
四等分に切ったお好み焼きをタエの更に乗せると目が合った。
さっきまであんなに可愛くてしょうがなかったタエが恐怖の対照でしかない。
『今日で最後にしよう。』
鉄板は、絶えずジュージューと熱を発している。
さっきよりも音が大きく迫ってくるようにジュージューと俺を責める。
またか…
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