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自転車を引きながら家までの坂道を歩いた。
急な上り坂で、自転車を漕ぐと腿の筋肉が強張るのでいつも歩く。
等間隔で立つ街灯の光が虚しさを強調させる。
スボンのポケットから携帯を取り出し、ボタンを2、3個押すと、耳に当て、コール音を聞いた。
『もしもし?』
『ヤマァ!』
『稲?酔ってる?』
相変わらず真面目な奴だ。
お洒落だし、一見それなりに遊んでそうに見えるけど、骨の髄から真面目で構成されてるような奴だ。
悪ガキがそのままでっかくなったような俺とは、相性悪そうな感じがするけど、実際は波長が合う、と思う。
『酔ってない。』
『じゃぁ、フラれた?』
『当てるな。』
『またかぁ。同じ理由?』
『同じ理由。』
『稲はモテんのになぁ。皆“気軽さ”を求めるね。』
『俺さ、そんな軽そう?』
『…』
『軽そうか…』
『いや、稲がどうとかじゃなくてさ、相手が違うだけなんだよ。その相手に出逢うまでの良い経験と思えば?』
『ヤマは出逢ってるもんな…。俺も早く出逢いてぇ!』
それから家に着く数分話して電話を切った。
相手なんているのか?
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