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僕が10歳の頃。
春の花の散る晴れた日。
一人の少女が家に来た。
僕は、たまたま庭先にいた。
何をしていたかは忘れてしまった。
春の薄紅色の花が少しの風でハラハラと散る中、使用人の老婆に手を引かれて、庭の門をくぐる少女。
背が低く、随分と年下に見えた。
手足が飛び出たような、身体に合わない衣服。
細い手足。
薄汚れて、ボサボサの黒髪。
カサカサに渇いた唇は切れて血が滲んだのか赤い。
長く濃い睫に飾られた大きな瞳。
しかし、その瞳は暗い。
貧しい暮らしだったのか、体は痩せぎすで可愛そうに成る程だった。
老婆は僕に気付いて、深く頭を下げ、少女の手を引いてそそくさと立ち去った。
老婆の孫だろうか?
家には、住み込みの使用人が何人かいる。あの老婆も確かそうだ。
少女の有様から、なにか…不幸があったのかもしれない。
まぁ…家に居れば、衣食住は保障される。
きっとあの娘も、祖母の元で暮らせば、笑顔を取り戻すだろう。
僕は、そう思った。
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