溢れだした涙

1/1
37人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ

溢れだした涙

山形県の湯殿山へ行った時の話しです。 だいぶ古い出来事です。 夫と即身仏を見に行きました。 そこは、とても有名な所でした。 初めて見るその仏様の姿に戸惑いを感じながら、それでも尊敬の眼差しで、拝ませていただきました。 お寺を出て、どうしようかという事になりました。 その時、夫はこの近くには四体の即身仏があるらしいといいだしました。 せっかくのチャンスなので行ってみる事にしました。 車は、お寺を出てすぐの小さなカーブにさしかかっていました。 突然、私の片目から涙がどんどん溢れ出してきました。 驚かないように、私は夫に静かに話しかけました。 『びっくりしないでね、私の顔見て』。 夫は、訳もわからずおどろいて『何したの〰?』と言いました。 どうしてなのか、私にもわかりませんでした。 平常心でいたし、目の異常も感じていませんでした。 とりあえず、次の目的地に到着しました。 その時には、涙は止まっていました。 中に入ると、年輩のお坊さんが、詳しく説明してくれました。 そこで、私達は涙の意味を知りました。 そのお寺は、その昔、流行った疫病か飢饉から世の中を救う為に、自ら片目をえぐり取り、神に捧げたそうです。 その目は、私が涙を流した方の目と同じでした。 夫と私は、目を合わせました。 なるほどね、と頭をこくんとうなずき合いました。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!