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溢れだした涙
山形県の湯殿山へ行った時の話しです。
だいぶ古い出来事です。
夫と即身仏を見に行きました。
そこは、とても有名な所でした。
初めて見るその仏様の姿に戸惑いを感じながら、それでも尊敬の眼差しで、拝ませていただきました。
お寺を出て、どうしようかという事になりました。
その時、夫はこの近くには四体の即身仏があるらしいといいだしました。
せっかくのチャンスなので行ってみる事にしました。
車は、お寺を出てすぐの小さなカーブにさしかかっていました。
突然、私の片目から涙がどんどん溢れ出してきました。
驚かないように、私は夫に静かに話しかけました。
『びっくりしないでね、私の顔見て』。
夫は、訳もわからずおどろいて『何したの〰?』と言いました。
どうしてなのか、私にもわかりませんでした。
平常心でいたし、目の異常も感じていませんでした。
とりあえず、次の目的地に到着しました。
その時には、涙は止まっていました。
中に入ると、年輩のお坊さんが、詳しく説明してくれました。
そこで、私達は涙の意味を知りました。
そのお寺は、その昔、流行った疫病か飢饉から世の中を救う為に、自ら片目をえぐり取り、神に捧げたそうです。
その目は、私が涙を流した方の目と同じでした。
夫と私は、目を合わせました。
なるほどね、と頭をこくんとうなずき合いました。
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