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「……ふっ、ふっ」
薬品の匂いが漂う闇の中。
その濁った匂いを掻き消すように一つの人の形が暗闇を駆けていた。
「………っ!」
何かに気付いたかのように唐突に止まる一つの人型。曲がり角の先には二人の男が立っていた。
「いたか?」
「いや、こっちにはいない」
二人の男は両方ともが黒光りする両手持ちの銃を持っており、軍服のような服を着ていた。
バタバタと慌ただしく二人は別の方向へと向かっていった。それを見届けて、一つの人型は小さく舌打ちを零す。
ゆっくりと曲がり角から姿を見せて、誰もいないことを確認してからその人型はまた走り始めた。
体を深く沈み込ませて、まるで放たれた矢のように一直線に走る。
と、そこに。
「……ったく、どこにいやがんだよ」
先程の男たちとはまた別の男が、前方の角から現れた。
人型は一瞬だけ躊躇した後、その男にそのまま突っ込み、飛び掛かる。
「な、うわ!? て、てめえ――」
言い切る前に押し倒し、首を極めて落とす。殺しはしないが的確に相手を無力化した。
だが、誤算が一つ。
『定期連絡、定期連絡。A―12、どうぞ』
しまった、と人型は思った。
倒れた男の胸に取り付けられた無線から声、どうやらこんな時のために定期連絡をしているらしい。
『定期連絡定期連絡、A―12、A―12?』
無線の向こうの声は確実に怪しんでいる。
このままにすれば自身がここを通り目の前にいる男を倒したとばれてしまう。
故に本来なら、人型は早々にここから立ち去るべきだ。
なのに人型は、倒れている男の無線を拾いあげ。
「地獄に堕ちろ、オーバー」
死神の宣告のようにそう告げ、無線を握り潰した。
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