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鼻腔を抜ける紅茶とジャムの薫り。
瞳を閉じて、それを感じると深くソファーに腰を沈める。
足を組んで、回想に更ける。
そうでもしないと、貴方は私に逢いに来てくれないのだから……。
目の前に広がる光景。
首を左右に捻って、情報を集めても意味がわからなくて、私は佇んでいた。
七色に光る歪な機械……。
消えたり、点いたりを繰り返す白熱灯……。
その間間に、石像の群れが立ち並んでいた。
石像の表情は喜びに満ち溢れて、私を見ていた様子が伺える。
何気なく振り返り、何が起きたのか確認を始めることにした。
一番最初に気づいたのが、私の足元を流れる液体。
無色透明のゲルのような物が飛び散った跡があり、その上に大小様々な硝子片が転がっていた。
「あぁ、あぁ……」
私は思い出していた。
私が飛び出す前の大きな硝子容器で見た光景を。
私の姿を見ながら、研究者達が何かを操作していて、腕に差し込まれたチューブから得体も知れない物を入れられていたことを。
このゲルの中で、私は試されていた……。
私が『メデューサの瞳』に適性があるのかを……。
無数の管を刺されて、そこから流れてくる液体が体内を駆け巡る度、体が激痛に襲われた。
でも、言葉を知らない私は「痛い」とも言えなくて。
朦朧とする意識の中で、私は私の運命を呪い、研究者達を怨み続けた。
その怨みが通じたのか、私は今こうして外に出られた。
私は髪にへばりつくゲルを手で払い、管を引き抜いてやった。
体が痛みで叫び声を上げているが、外に出られた喜びの方が大きくて……。
上手く動かない体を引きずりながら、研究所を抜けて行ったのだった――
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