【葉緑の章】

5/111
前へ
/683ページ
次へ
「何て謝ればいいのかわからないが……。お前さんには苦労をかけた……。わしらみたいな自分勝手な考えで、君に辛い思いをさせてしまったことを深く反省をしている……」  低く優しい声が、私を宥めるように話しかけてくれて。  何かを決意したように、振り返ろうとする。 不意に頭に過る研究所の石像達。 全てこちらを向いていたことを思い出すと、私は慌てて顔を両手で覆い隠した。 恐らく、研究者達は私の何かを見て、石になった。 そう思えて、両手で隠せる部分である顔を隠したのだ。 足音が徐々に近づいて来る……。 身をよじらせて、足元にある布で体を隠す。 何も見ないように。 見せないように。 しかし、何かを置いた音の少し後、優しく手首を握られて、覆い隠していた顔を晒される……。 目を固く閉ざした私。 見られたくない……。 私がどんな醜い形を知らないから。 見られたくない……。 私の体にどんな秘密があるのかわからないから。 そんな葛藤がある私を癒すように、頭に手を当てられる。 初めて感じた温もりに驚き、目を開く。 その先には初老の男性の姿があって、優しく微笑みかけてくれた。 しかし、目が合った瞬間、男性の顔が微かに歪む。 眉間にシワがより、歯を食い縛るのがわかる。 微かに上げる唸り声が、私には苦しそうに聞こえたのだ。 「あ……、あぁ……」  「ごめんなさい」と謝る言葉を知らない私は、ただ罪悪感に囚われた。  だって、私を見ただけで苦しそうな顔をしたのだから、私のせいなのは明らかだったから……。 「だ、大丈夫だ……! どうやら、お前の能力は感情に左右されるようだな。体は動かないが、口と首は動かせる……」 「あぁぁ……?」  そのときだけは、何を言ってるのかわかった気がして。  胸が熱くなるのと同時に、私の目をから何かが溢れて出した。 「泣いているのか? 可哀想に……。涙すら石になってしまうとは……」  掌で溢れてくる物を受けていく。  小さな粒が掌に降り注いで、やがて、掌から零れ落ちる……。 コロコロと私を覆う布に落ち、鈍く輝いて見せる。 私の涙は、無色の石ころ……。 初めは気にならなかったが、後に私が普通じゃないことがわかり始めたのだった……――
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加