【葉緑の章】

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 しばらく、動けなくなっていた男性。 しかし、何かを境に体が動くようになったらしく、肩や手を動かし、安堵の表情を浮かべて見せる。 そして、三度私に微笑みかけると、頭を撫でてくれた。 「悪いが目を合わせることは出来ない。しかし、目を合わせなくとも出来ることがあるだろう。今日はゆっくりお休み?」  男性は銀盆に乗せられたティーカップを私に渡すと、銀盆だけ持っていく。  自然に薫るいい匂い。 私はしばしそれを堪能すると、口に運んだ。 甘さはなかったが、口や鼻を通る薫りの強さに驚いてしまう。 体を通り抜ける温かさに、私は小さくため息を吐いた。 「おいしかろう? これは紅茶と言う飲み物だ。気に入ったかい?」  少し顔を私から逸らし問いかけてくる男性。  私は言葉を返せないため、全部飲んで返事を返す。 男性は横目で確認すると、唇の両端を持ち上げ嬉しそうに微笑んでくれてた。 それから、私と男性の二人きりの暮らしが始まった。 しばしば、目を合わせてしまい、男性を固まらせてしまったが男性は何も言わず、微笑みかけてくれて。 二人で色んな苦労をしながら送る生活は、私には楽しくて幸せに感じられた。
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