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そんな生活を更に楽しみたくて、男性が話す言葉を覚える努力もした。
単純な読み書きから、幼稚な絵本も読んで。
少しずつだが、言葉を覚えて、ようやく話せるようになると男性は大いに喜んでくれた。
「あの、名前はなんでしか?」
「わしか? わしは……、おじいちゃんと呼んでくれるか?! その方が合っとる!」
「おじちゃ?」
「お、じ、い、ち、ゃ、んだ」
「お、じ、いちゃん?」
「そうだ! そうだ……!」
そのとき、顔をくしゃくしゃにして私を撫でてくれたおじいちゃん。
今でも、この瞳に焼きついている……。
ただ、この瞳のせいで幸せだった日常は破壊されてしまう。
大好きなおじいちゃんと目を合わせることも出来ず、会話しか出来ない。
目と目を向けて話したかった……。
しかし、それは叶うことは一度もなかったのだけれど……。
「おじいちゃん! この本、読み終わったから次の本ないかな?」
「おぉ、マリア。すごいじゃないか。そうだなぁ、もうこれ以上難しい話はないぞぅ?」
私が「おじいちゃん」と呼んだ後、おじいちゃんは私に『マリア』と名前をつけてくれた。
『マリア』というには似つかわしくないとは思ったけれど、おじいちゃんに名前を呼ばれる度、『マリア』は私なんだと段々自分の名前が大好きになった。
相変わらず、目を合わせることは出来なかったけど、私はすごく幸せだった。
ただ、私のせいで幸せな生活は崩れ落ちていく……。
私が『メデューサ』であるが故。
私が怪物であるが故に……。
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