【葉緑の章】

12/111
前へ
/683ページ
次へ
「おい! 大丈夫か! 今助けるぞ!」 「え……っ?」  叫び声の少し後に水飛沫が上がり、私に向かって凄い勢いで近づいてくる。  私が地面に足を着くと同時に、目の前に再び水飛沫が上がり、私はそれが目に入らないように腕で目を隠していた。 「大丈夫か! ここの川は浅いからといって油断するんじゃない!」 「えっ? えっ?」  水飛沫の後、私の肩を力強く握る若い男性。  濡れたせいか、髪の先から雫が落ちていく。 余程心配だったのか、眉間に深いシワを刻み、一瞬、見つめ合ってしまった。 そう思ったのも束の間、視線がぶれて……。 気づいたときには、頬に温かい温もりを感じていた。 「速まるな! 何があったか知らないが、命は投げ捨てるものじゃない!」 「えっ?! あの! 私!」 「落ち着け……。ゆっくりでいいから……」 「えっ? えっ?」  強く抱きしめられて、次第に恥ずかしくなってくる。  おじいちゃんに抱きしめられるのと違う温かさ。 過激なぐらいの温もりだった。 「あの! 私! 違うんです! 川で遊んでただけなんです……っ!」 「えっ?」  ゆっくり私を引き離す男性。  私の顔を見て、何故か視線が下に下がり、再び上に上がると同時に鼻から血を吹き出したのだった。 「だ、大丈夫ですか?!」 「大丈夫も何も、ありがとうございます」 「な、何が……?」  川の中、鼻血を出す男性と私……。  私がおじいちゃん以外で初めて話した男性。 それが閻魔大輔だった……。  川から上がると、必死に顔を洗う男性。 私はそれをただ眺めながら、男性が振り返るのを待つことにした。
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加