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「おい! 大丈夫か! 今助けるぞ!」
「え……っ?」
叫び声の少し後に水飛沫が上がり、私に向かって凄い勢いで近づいてくる。
私が地面に足を着くと同時に、目の前に再び水飛沫が上がり、私はそれが目に入らないように腕で目を隠していた。
「大丈夫か! ここの川は浅いからといって油断するんじゃない!」
「えっ? えっ?」
水飛沫の後、私の肩を力強く握る若い男性。
濡れたせいか、髪の先から雫が落ちていく。
余程心配だったのか、眉間に深いシワを刻み、一瞬、見つめ合ってしまった。
そう思ったのも束の間、視線がぶれて……。
気づいたときには、頬に温かい温もりを感じていた。
「速まるな! 何があったか知らないが、命は投げ捨てるものじゃない!」
「えっ?! あの! 私!」
「落ち着け……。ゆっくりでいいから……」
「えっ? えっ?」
強く抱きしめられて、次第に恥ずかしくなってくる。
おじいちゃんに抱きしめられるのと違う温かさ。
過激なぐらいの温もりだった。
「あの! 私! 違うんです! 川で遊んでただけなんです……っ!」
「えっ?」
ゆっくり私を引き離す男性。
私の顔を見て、何故か視線が下に下がり、再び上に上がると同時に鼻から血を吹き出したのだった。
「だ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫も何も、ありがとうございます」
「な、何が……?」
川の中、鼻血を出す男性と私……。
私がおじいちゃん以外で初めて話した男性。
それが閻魔大輔だった……。
川から上がると、必死に顔を洗う男性。
私はそれをただ眺めながら、男性が振り返るのを待つことにした。
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