63人が本棚に入れています
本棚に追加
「いやぁ~、てっきり入水自殺するのかと思いましたよ~」
止まり切ってない鼻血を垂らしながら、恥ずかしそうに笑う男性。
私もそれを見て、笑えてしまって。
二人で笑いながら、隣り合わせで腰をかけた。
何故だろう。
嫌じゃなかった。
勘違いだったにしろ、私を案じて泳いできてくれたのだから。
「俺は大輔。閻魔の跡取り」
「えんまって何ですか? あっ、それよりまだ血が出てますよ?」
おじいちゃんにもらった真っ白な服。
だけど、大輔を見たら放っておけなくて裾を破り、血の流れ出す鼻に当てて上げた。
「あ、ありがとうございます……」
はにかみながら、両頬を赤く染める大輔。
何だかそれが可愛くて、私も少し照れてしまって……。
目が合わないように、うつ向いてしまったのだった。
「き、君の名前は?」
「あ……、私はマリアって言います。その……、私、外出るの初めてで……。森とか川を見て興奮しちゃって。川に身を任せて流れてたんです。ごめんなさい、心配かけて……」
「あ、うん。いや、あのさ……。マ、マリアが流れてるの見て……。あ! 悪い! いきなり呼び捨てはないよな!」
何故だろう……。
少し、胸の高鳴り方が変わって……。
感動とは違う胸の高鳴り。
不思議で心地よい感覚だった。
「いいですよ? 嬉しいなぁ、おじいちゃん以外に私の名前呼んでくれる人が出来るなんて」
「なら! 俺も大輔って呼んでくれよ! ちなみに、人間界の文字でこう書くんだ!」
大輔は自分の足元に転がる大きな石を手繰り寄せ、小さな石で名前を刻んでいく。
私もどういう字を書くのか気になり、大輔に身を寄せて覗き込んだ。
「いい名前……。格好いいですね……、大輔って」
「マリア……」
肩がくっつき合うほど寄せていた私と大輔。
私もそれに気づくと、慌てて距離をおく。
何もかも、初めての感覚……。
気持ちいい息苦しさに、私は顔が熱くなっていた。
最初のコメントを投稿しよう!