【葉緑の章】

13/111
前へ
/683ページ
次へ
「いやぁ~、てっきり入水自殺するのかと思いましたよ~」  止まり切ってない鼻血を垂らしながら、恥ずかしそうに笑う男性。  私もそれを見て、笑えてしまって。 二人で笑いながら、隣り合わせで腰をかけた。 何故だろう。 嫌じゃなかった。 勘違いだったにしろ、私を案じて泳いできてくれたのだから。 「俺は大輔。閻魔の跡取り」 「えんまって何ですか? あっ、それよりまだ血が出てますよ?」  おじいちゃんにもらった真っ白な服。  だけど、大輔を見たら放っておけなくて裾を破り、血の流れ出す鼻に当てて上げた。 「あ、ありがとうございます……」  はにかみながら、両頬を赤く染める大輔。  何だかそれが可愛くて、私も少し照れてしまって……。 目が合わないように、うつ向いてしまったのだった。 「き、君の名前は?」 「あ……、私はマリアって言います。その……、私、外出るの初めてで……。森とか川を見て興奮しちゃって。川に身を任せて流れてたんです。ごめんなさい、心配かけて……」 「あ、うん。いや、あのさ……。マ、マリアが流れてるの見て……。あ! 悪い! いきなり呼び捨てはないよな!」  何故だろう……。  少し、胸の高鳴り方が変わって……。 感動とは違う胸の高鳴り。 不思議で心地よい感覚だった。 「いいですよ? 嬉しいなぁ、おじいちゃん以外に私の名前呼んでくれる人が出来るなんて」 「なら! 俺も大輔って呼んでくれよ! ちなみに、人間界の文字でこう書くんだ!」  大輔は自分の足元に転がる大きな石を手繰り寄せ、小さな石で名前を刻んでいく。  私もどういう字を書くのか気になり、大輔に身を寄せて覗き込んだ。 「いい名前……。格好いいですね……、大輔って」 「マリア……」  肩がくっつき合うほど寄せていた私と大輔。  私もそれに気づくと、慌てて距離をおく。 何もかも、初めての感覚……。 気持ちいい息苦しさに、私は顔が熱くなっていた。
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加