【葉緑の章】

17/111
前へ
/683ページ
次へ
「マリア? ロシアンティーを淹れたんだが、飲むかい?」  私が返事を返す前に扉を開いてしまって。  私を見たおじいちゃんの体は硬直したように固まってしまった。 「マ、マリア……! どうしたんだい?」  目が合ってしまったためか、おじいちゃんは身動きが取れないみたいで。  私は慌てておじいちゃんに謝った。 でも、時間が経たなければ私の力の効力は解けなくて。 しばらく、固まったままだった。  硬直した体に自由が戻ったおじいちゃんを尻目に、また私は外を眺めていた。 頭の中は大輔で一杯で、何も考えられない。 我が儘だとわかってるけれど、外に出たくて仕方なかったのだ。 「マリア? ロシアンティーだよ?」  私の手元に差し出されたロシアンティー。  「ありがとうございます」と小さく呟き、私はロシアンティーを口に運んだ。 独特の紅茶の匂いが鼻腔に広がった後に、ブランデーと苺ジャムの味が口に広がる。 あまりの美味しさにため息が零れてしまう。 それだけのことなのに、頭の中で大輔と私がこのロシアンティーを飲んでいる風景を連想してしまって……。 きっと、大輔も喜んでくれるはず。 何の根拠もないけど、そう思えた。 「マリア……。悪いが山苺を採って来てくれんか……?」 「えっ……?」 「わしは足が痛くて、山にはよう登らん。ロシアンティーを作るジャムは山苺が最適でな……」 「おじいちゃん……? 私、約束したよね? 外に……、二度と出ないって」 「マリア? 動物や人に気をつけて行くんだよ? お前の瞳は魅力的過ぎて体に悪いからな」  小さく呟くようにして、私の部屋を後にしたおじいちゃん。  歓喜のあまり、しばらく動けなくて。 我に返ると手櫛で髪を整え、急いで部屋から出ると勢いをそのままに家から飛び出していた。
/683ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加