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服の袖から水が滴り落ちていくのを見ながら河辺に二人で上がって行った。
私の左手を大輔の右手が包み、温もりが重なって。
どちらというわけでもなく、指が微かに動けば顔を見合わせた。
不思議なのは、大輔と目が合っても大輔の体に反応はない。
ただ、恥ずかしそうに微笑むと頬を掻きながらうつむいてしまう。
こんな嬉しくて、むずむずする感覚は初めてだった。
「大輔さん……」
「ん? どうかした?」
「あっ! ごめんなさい、名前を呼びたかっただけ……」
「マリア……」
胸の音が鳴り止まない。
身体中に熱を帯びて、頭の中が真っ白で視界がやけに狭く感じる。
大輔しか見えない……。
大輔しか見られなかった……。
「初めて逢ったときより、美人になったな」
「えっ? ん……っと、私にはよくわからないんですが……」
「鏡とか見ないの? 綺麗だよ、マリア」
「ありがとうございます……」
私の濡れた髪を優しく掌で掬い、自分の鼻に持っていく大輔。
目を閉じて、僅かに首を左右に動かして……。
ただ、それだけのことなのに私は恥ずかしくなって目を固く閉ざしてしまった。
大輔に何されても恥ずかしい……。
川の中では、久しぶりに逢えた喜びで唇を交わしてしまったけれど、思い出しただけでも鼓動が加速していくのがわかってしまった。
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