0人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
いつもと違って真剣に言う古谷は、俺が小学校から知っている古谷とは少し違って見えた。
「お前、アオ高志望だったじゃん。いきなりどうしたんだよ」
ヅミ高やアオ高と言うのは、俺たちの町にある高校の略称だ。
普通の奴は近い私立のアオ高を選ぶ。
しかし頭の良い奴は、国公立のエリート高校、ヅミ高に行くのだ。
ヅミ高は県内でもレベルの高い高校なので、毎年、県内のエリート中学生がわんさか受験する。
ヅミ高の合否が発表されたその瞬間、将来がエリートコースと平凡コースに別れると言っても過言ではない。
だから、俺たちの中学校からもたくさんの生徒が躍起になって受験するが、合格するのはほんの一握りだ。
そのヅミ高へ、俺の友達が、この古谷が行こうとしているのだ。
「どうせやるんならさ、ちょっと頑張ってみようかなって…」
恥ずかしそうにそう言う古谷が、何故か別次元の人間の様に思えて、俺は足元がぐらつくのを感じた。
俺と同じレベルの偏差値の古谷がヅミ高に受かるなど、殆ど不可能に近い。
しかし、大好きだった漫画やCDを捨てる程の決意だ。
生半可な気持ちではないのだろう。
受験まであと半年…。
もしかしたら古谷は、俺と違う次元の住人になってしまうのかもしれない。
妙な沈黙が部屋に流れていた。
最初のコメントを投稿しよう!