プロローグ

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いつもと違って真剣に言う古谷は、俺が小学校から知っている古谷とは少し違って見えた。 「お前、アオ高志望だったじゃん。いきなりどうしたんだよ」 ヅミ高やアオ高と言うのは、俺たちの町にある高校の略称だ。 普通の奴は近い私立のアオ高を選ぶ。 しかし頭の良い奴は、国公立のエリート高校、ヅミ高に行くのだ。 ヅミ高は県内でもレベルの高い高校なので、毎年、県内のエリート中学生がわんさか受験する。 ヅミ高の合否が発表されたその瞬間、将来がエリートコースと平凡コースに別れると言っても過言ではない。 だから、俺たちの中学校からもたくさんの生徒が躍起になって受験するが、合格するのはほんの一握りだ。 そのヅミ高へ、俺の友達が、この古谷が行こうとしているのだ。 「どうせやるんならさ、ちょっと頑張ってみようかなって…」 恥ずかしそうにそう言う古谷が、何故か別次元の人間の様に思えて、俺は足元がぐらつくのを感じた。 俺と同じレベルの偏差値の古谷がヅミ高に受かるなど、殆ど不可能に近い。 しかし、大好きだった漫画やCDを捨てる程の決意だ。 生半可な気持ちではないのだろう。 受験まであと半年…。 もしかしたら古谷は、俺と違う次元の住人になってしまうのかもしれない。 妙な沈黙が部屋に流れていた。
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