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「……キルヴァーツ……」
ぽつりと名を呼んでも返す声は無い。癒えない喪失感と悲しみに、涙が溢れる。逢いたい、もう一度声を聞きたい、抱き締めて欲しい。
――けど、決して叶わない。
「う、くぅ…っ」
大声で泣いてしまいたかった。けれど、そんな真似をすれば声は自室の外まで響いてしまうから。泣いた事が義父に伝われば、優しいあの人は心配してしまうだろうから。要らぬ心配を掛けたくないという思いから、本能を理性で抑え込み、顔を枕に押し付けた。
「っ……ひ…うあぁ…」
呻きにも似た嗚咽が、潰れていない右目から零れる涙が止まらない。今はもう、何処にも居ない『彼』を夢に見ただけで、こんなに苦しいなんて…。
― 或る吸血鬼の嘆き ―
(貴方に、逢いたい)
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