涙の止め方

2/11
2340人が本棚に入れています
本棚に追加
/445ページ
「……ひっ、く」  止まらない嗚咽。 「ぐぞー……」  ちゃんとしゃべれないほどの鼻声。 「バカヤロー」  涙を拭いつぶやく。私はついさっき、大好きな人に振られた。いや、大好きだった人に。 ――もっと断り方があるでしょうがっ!  胸の痛みとともに悔しさがこみ上げて、涙が止まらない。いま、世界で一番不幸なのは……私だ。  とぼとぼと歩いていると、立て看板をしまおうとしている小さなカフェが目に入った。夕方とは言え、5時にもなっていないのに。もう閉店作業? ちょっと待ってよ。  私はドスドスと、早歩きで立て看板の前に立つ。黒い制服に身を包んだ店員の不審な目。視線が痛くてうつむく。私がこんなにつらい思いをしてるのだから、少しくらい……ワガママを言いたい。 「……ください」 「は?」 「涙の止まる飲み物ください!」  私はあらゆる汁を流しながら、半ばヤケになって叫んだ。
/445ページ

最初のコメントを投稿しよう!